第4回:相手に配慮しつつ視野を広げよう

①自分を客観的に見て分析することは安全だけじゃなく速さにも繋がる!

 

前に説明したことを繰り返すけど、モータースポーツとは危険を伴う遊び。だからこそ参加するボクたちは、少しでもリスクを減らす努力をしなきゃいけないんだ。車両のクラッシュに限らず、サーキットで起きるトラブルの原因を突き詰めていくと、その大半が『周囲に対する配慮不足』から起きている。今回は走行/パドック/コミュニケーション/車両に分け、走るうえで心がけることをまとめてみた。中~上級者もゼヒ復習して欲しい!

 

運転を見れば性格が分かる、と昔から言われているよね。向こう見ずに突き進むタイプ、遠慮しすぎて行動できないタイプ、攻めるときと引くときを分別できるタイプ……。しかしモータースポーツに限定して話をすると、イケイケの猪突猛進タイプが多いように思えて仕方ない。モチロン、それが悪いってことじゃないぞ。モータースポーツには順位やタイムが付きものだし、ましてレースなんて負けず嫌い選手権みたいなモン。問題なのは、熱くなり過ぎて周囲が見えなくなることなんだ。

ひとつ例を挙げよう。とあるレースで2番手を走行中のドライバーがいた。トップとはわずかの差、必死に追いかけていたら、突っ込み過ぎてアンダーステア。コースからはみ出してスピンを喫したが、まだ追いつく可能性はある。急いでコースに復帰したところ、後ろから激しい衝撃が。本人は「追突しやがって!」と怒り心頭、しかしペナルティを取られたのは彼だし、ナゼか当ててきたはずの相手が激怒している。その理由は説明するまでもないよね?

実際に起きたこのクラッシュ、事故の原因はスピンしたドライバーがコースに戻る際の安全確認を怠ったから。彼はそこそこレースの経験もあるし、決してルールやマナーを知らなかったワケじゃない。でも、逆に考えてみよう。いわゆる中級者でも、サーキットという特殊なシチュエーションに身を置くと、ごく当たり前の判断すらできなくなる可能性があるんだ。「常に落ち着いて!」と言うのはカンタンだけど、それを実行し続けるのは意外に難しい。

初心者や上級者に関係なく、サーキットを走るとき必ず心がけて欲しいこと。まずコースイン直後の1~2周は、はやる気持ちを抑えるためにも適切なスピードでウォームアップする。あるレーシングドライバーは、最初の1周でどのポストに人がいるかを確認するという。フラッグが振られる場所を調べる同時に、気持ちを落ち着ける意味もあるとのこと。また全開でアタックしている最中も、後方から速いマシンが追いついていないか、コースやクルマに異常がないかチェック。「自分はいま冷静か、我を失っていないか。バトル中など白熱したシチュエーションになればなるほど、自問するよう心がけています」と教えてくれた。

自分を客観的に見つめる行為が役立つのは、危険回避だけにとどまらない。例えばバトルで相手に仕掛けるとき。ガムシャラに追いかけたところで、いたずらにタイヤやブレーキの消耗を早めるだけ。冷静に相手より自分のほうが速いところを分析し、ココぞというポイントで勝負をかける。そうすれば接触の危険性を減らせるし、タイヤなども温存できるので抜いてからの守りも楽になるぞ。熱くなったときこそ冷静に!

 

レース形式のイベントでも、すべてのポストに人がいるとは限らない。フラッグが提示される場所は最初に確認しておくのが常識だ。

 

コースに砂利が出たのでステアリングを切ったら、真横にクルマがいて激しく接触。それも冷静さを欠いていたことが原因といえる。

 

 

②走行編

アクシデントが起きやすい状況を把握しよう

サーキット走行において、事故が発生しやすい状況は以下の4つ。すなわちオーバーテイクのとき、ストレート速度が大きく違うクルマが混走するとき、レースであればスタート直後のラップ、そして意外に感じるかもしれないけどストレート区間だ。対策をカンタンに解説しよう。オーバーテイクは抜く側も抜かれる側も、中途ハンパに譲ったりノーズを入れるんじゃなく、意思表示をハッキリする。混走のときはリスクの少ないストレートで抜く、あるいは抜かせる。スタート直後はタイヤも冷えているしムリをしない、接触して勝ったところで後味が悪くなるだけ。ストレートの事故は、スリップストリームから抜けたときに起きやすい。真横でもスリップは効いているので、ハンドルを取られて横のクルマに当たってしまうのだ。かなり大雑把になるが、走行中にこれらを意識するだけで他車との接触はかなり減らすことができるぞ。

 

レース経験が豊富なドライバーは、バトルの駆け引きも上手い。相手をリタイヤに追い込むような接触は、絶対に避けなきゃダメだ。

 

NAに過給器つきなど同じ車種でも、ストレートの速さには大きな差がある。コーナーで抜くのはなるべく控えよう。

 

前車のミラーに映るよう位置をズラす、ライトを点灯させ接近していることをアピールする。相手に存在を知らせるのも配慮のうち。

 

スタート直後はクルマだけじゃなく、ドライバーの身体も温まっていない。ダンゴ状態のなかで接触なんて、考えるだけで冷汗モン。

 

ストレートの事故はナゼ被害が大きい?

サーキットでもっとも速度が乗る区間はストレート、しかもコーナーと違ってエスケープゾーンも小さい。事故が起きたら被害が大きくなるのも当然なのだ。追い越すときはある程度の距離を空けたり、コーナーが近いときはもう1ラップ待つなど、ちょっとした気配りで未然に防げるということを忘れずに。

 

 

③パドック編

整備/喫煙/駐車は場所をわきまえよう

 

相手への配慮はコース内だけじゃなく、パドックやピットでも欠かせない。最近よく見かけるのが、ピットロードで長時間に渡ってクルマを整備するケース。レース中ならタイヤ交換なども認められるけど、通常はホイールナットの増し締めやカンタンな点検くらいが常識だ。また見学のクルマを通行の妨げになる場所に停めたり、ピットでの喫煙も依然として少なくない。自分の行為が誰かにとって迷惑であるか、危険であるか熟慮しよう。

 

サーキットやイベントによっては、独自のルールが存在することも。分からないことがあればミーティングなどで必ず質問するべし。

 

ピットは整理整頓し、キレイに使うこと。オイルなどをこぼしたら清掃するのが当たり前だし、ゴミを置いていくなんてのは論外だ。

 

 

④コミュニケーション編

 

意思の疎通を図ることでトラブルの可能性は減る

 

コレまた実例を挙げてみよう。とある耐久レースで同じピットを使うことになったチーム、どうやらピットインのタイミングも似たり寄ったり。そこで混乱を避けるために話し合い、燃料に余裕のあるチームが2~3周ほど遅らせた。おかげでタイムロスなく給油でき、両チームとも見事に表彰台を獲得。自分のことだけを考えて我先にピットインさせたら、また相手と意思の疎通ができていなかったら、違う結果になっていたかもしれない。

 

東北660選手権のひとコマ。熾烈な戦いを繰り広げた両者が、レース後は笑顔で健闘を称え合う。相手との信頼関係があってこそ!

 

トラブルで困っている人を見かけたら、積極的に力を貸そう。自分が同じ立場に置かれたとき、見て見ぬ振りをされたらどう感じる?

 

 

⑤車両編

 

安全なクルマ作りも配慮のひとつ

 

メンテナンス不足でオイルを垂れ流し、それが原因で誰かがクラッシュする。安全装備をないがしろにしたせいで、大ケガを負って走行会が中止に追い込まれる。いずれも想像しただけで空恐ろしい……。サーキットという場所、そしてイベントという時間を「参加者みんなで共有しているんだ」って意識をなくさず、安全でトラブルの起きないクルマ作りを心がて欲しい。またまた実例。ある車両がコースアウトし、砂利に埋まってレッカー車が出動した。しかし純正の牽引フックすら外されており、作業に時間がかかって走行枠の大半を費やした……。本人は「少しでも軽量化したかった」と言い訳していたけど、まわりへの配慮が足りないゆえの行為だよね。

 

サーキットに到着してから、また走行のインターバルにホイールナットを増し締めしておこう。アルミナットは意外に緩みやすいぞ。

 

ブレーキフルードが漏れないよう、キャップをタイラップで締め付け。沸騰して吹き出したときのため、布製のカバーも被せている。

 

牽引フックを外すなんて論外。引っ張りやすさを考えるなら、社外品を使うのがベストだ。オフィシャルの負担も減る。

 

タイヤやブレーキなど重大なクラッシュに直結する消耗品は、神経質なくらいチェックしておこう。他人を巻き込まないためにもね。