第3回:安全は何よりも優先させなきゃダメ

① 人の問題編 意識の低さが全員の楽しみを奪う!「自分だけは大丈夫」と思うなかれ

 

どんなスポーツでも安全に対する意識を持つことは必要だが、モータースポーツは特に大きな危険を伴うカテゴリー。まして車両やアフターパーツの進化により、タイムはどんどん速くなる傾向にある。つまり10年前の基準を満たしていた安全装備は、すでに時代遅れとなっている可能性もあるのだ。自分がケガをしないだけじゃなく、相手を加害者にしないため、関係者すべてに迷惑をかけないため、安全という言葉の意味を再考してみよう。

何度も繰り返し説明していることだけど、サーキット走行はそれ事態がモーター”スポーツ“だ。野球には野球の、サッカーにはサッカーの装備があるように、モータースポーツにだってプレイするに相応しい格好というモノが存在する。それは車両に装着するパーツだけじゃなく、ドライバーの装備も同様。時速100㎞を軽くオーバーする鉄の塊を扱うスポーツなんだから、普段着じゃいけないってことは理解できるよね。

最近ではロールケージ、またレーシングスーツなどのギヤがだいぶ普及してきたけど、未だに「ストリート仕様だから普段着で、ロールケージを付けないのがカッコいい」という意見を聞くことがある。それは大きな間違いで、アナタが走っているのはサーキットであり、一般公道ではあり得ないスピードや、クルマに対して負荷がかかる場所ってことを忘れてはいけない。仮に自分のドライビングが完璧だとしても、もらい事故でケガをする可能性もある。

口を酸っぱくして安全装備の必要性を説くイチバンの理由は、ひと言でいえば「まわりに迷惑をかけなため」だ。ケガをするのは自分なんだし放っておけ、という考えを持っているなら、言葉は悪いがモータースポーツに関わる資格はないぞ。レース中に相手と接触し、自分の安全装備が不十分だったせいで亡くなったと仮定しよう。それでイチバン責任を感じるのは誰? 言うまでもなく事故の相手であり、法的な責任まで負わされるケースもあり得るのだ。

つまり安全装備とは、自分の身を守るためだけじゃない。モータースポーツを愛する仲間を、また走る場所を提供してくれるサーキット、イベントの主催者までを含めて守るため、全員が共通の認識を持つべきマナーってことを理解して欲しい。ビギナーだから安全装備は軽め、という考えも大きな間違い。初心者こそドライビングミスをする確率が高いし、メンテナンスが万全じゃなくトラブルを起こすかもしれない。F1ドライバーと一般のシロート、事故を起こす可能性が高いのはどっち?

幸いなことに、サーキットが身近な場所になるにつれ、リーズナブルな価格の安全装備が続々と登場している。一般的なサーキット走行や草レース向けであっても、難燃性などはFIA(国際自動車連盟)公認モデルと同等の製品も多い。モータースポーツという楽しい世界を守るためにも、安全に対する高い意識をみんなで共有し、新しく始める人たちに伝えていかなきゃダメ。サーキット走行を趣味にしているみんなには、ビギナーにとってイイお手本であって欲しいな!

以前の東北660選手権、最終戦で置きた衝撃のクラッシュ。ロールケージにレーシングギヤ、まだまだ装着率の低いhansも装備していたおかげで、ドライバーは無傷で済んだ。

非力なローパワー車といえど、本格的なレーシングコースでは時速150㎞を超えるケースもある。だからこそ安全装備については普通車と同じか、それ以上のモノが求められるのだ。

 

 

②車両編  ロールケージは最大の安全対策!ボディ剛性も上がって一石二鳥だ

 

まずはクルマの安全装備から。イチバンは何といってもロールケージだろう。東北660選手権を例に挙げると、クラスを問わず6点式以上が必須となった。コレは予想をはるかに上まわるスピードでタイムが速くなり、かつ台数も爆発的に増えたことによる対策。過去に横転を含む事故がいくつかあったけど、不幸中の幸いかすべてロールケージ装着車だったので、ケガ人が出るような事態は回避できた。またロールケージは単なる安全パーツじゃない。ボディ剛性を高めてサスペンションが正確に動き、ブレーキングや高速コーナーが安定する効果もあるぞ。

 

走行前のメンテナンスも、安全対策のひとつといえる。ノウハウがない人は自分を過信せず、素直にプロにお任せすることも大切だ。

 

牽引フックは2次災害を防ぐのに有効。自分の安全とは関係ないかもしれないが、まわりに迷惑をかけないために用意しておきたい。

 

バケットシートと4点式シートベルトも、必須といえる装備だ。ドライバーの身体が不安定では、マトモな運転など望むべくもない。

 

上級者はマシントラブル対策も怠らない。オイルフィラーキャップの緩み防止やレベルゲージの抜け防止は、レースカーはお手本だ。

 

パッドの残量、ローターのヒートクラック、ホースの亀裂。大きな事故に直結する部位だけに、ブレーキの点検は慎重に行ないたい。

 

タイヤは溝がシッカリ残っているのは当然として、劣化やコースアウトしたときの傷にも注意。古いタイヤはグリップも落ちている。

 

 

③ 身に着ける編 レースングスーツ

クルマって乗り物は可燃物だらけ、最近のスーツは通気性も悪くない

ひと昔前は、高い/暑い/重い/動きにくいと4重苦だったレーシングスーツ。最近の製品は軽いばかりか通気性もよく、長ソデ&長ズボンより快適なケースもある。クルマはガソリンやオイルを大量に抱えている火薬庫のようなモノで、内装も布やプラスチックなど燃えやすい素材が多い。4輪用のスーツは難燃性を最優先して作られており、車両火災が起きたときも焦らずに避難することができる。価格はFIA非公認モデルならば3万円~。

メッシュ生地を使うなど、意外なほど涼しい最近のモデル。トリプルレイヤーと呼ばれる3枚重ねのスーツでも、そこそこ快適なのだ。

難燃性の素材を使っているなら、カート用のスーツもアリだろう。価格はよりリーズナブルだし、デザインもハデなのが多いような?

 

公式レースも見据えているなら、FIA公認モデルを買おう。グローブやシューズも公認であれば『8856-2000』というタグがある。

 

④ 身につける編 ヘルメット

2輪用と4輪用は目的から違う、4輪用は見た目もカッコいい!

転んだときの耐衝撃性を重視している2輪用に対し、4輪用ヘルメットはスーツと同じく耐火性を優先させている。また開口部が2輪用よりも狭く、シャープな印象を与えるのも特長だ。あとはサイズ選び。キツいからといって大きいモノを買うと、Gがかかったときにズレて運転を妨げる可能性も。スプリントが主体なら、少しキツ目のヘルメットを選ぶのが定石だぞ。重さも差があるので、現物を触って買うことができれば理想だが……。

本体のカラーリング、ミラーバイザー、バイザーステッカー。余裕があればドレスアップし、自分だけのヘルメットを作るのもイイ。

 

安全と同時に操作性までアップできる、特にシューズとグローブにはこだわれ

グローブとシューズは持っている人も多いはず。難燃性の他に操作性も考えて設計されているので、自分にフィットする製品を見つけて欲しい。レーシングスーツの下に着用するアンダーウェアも、完璧を求めるなら抑えておきたい。またフェイスマスクは安全性はモチロン、ヘルメットに汗の臭いがこびり付くのを防ぐこともできるので、1~2枚は用意しておくべし。これらもFIA公認モデルの他、草レース用が低価格で出まわってきた。

FIA公認モデルは、使える素材や面積の割合など細かい制約がある。そのうえ操作性も向上しているんだから、立派というほかない。

ヘルメットと切っても切れない問題が汗の臭い。それを軽減するのがフェイスマスクで、炎からも首まわりまでガードしてくれるぞ。

難燃性素材を使ったシャツ。吸水性も高いので、普通のTシャツを着て走るよりよほど快適だ。ズボンもあるのでお揃いで使いたい。

シューズもFIA公認モデルは難燃性。靴底は繊細なペダル操作ができるよう、かなり薄く設計されているので、消耗品と割り切ろう。

こうなったら交換。操作だけなら問題ないかもしれないが、穴から炎が入ってはヤケドしてしまうからね。たっぷり走り込んだ証拠!

今後を見据えて、hansはもはや必須に近い!?

 

 

冒頭で書いたように、時代に合わせて進化しなきゃいけないのが安全装備。その意味で今イチバン欲しいのは、hans(ヘッド・アンド・ネック・サポート)だろう。頸椎の損傷を防ぐアイテムで、コレが必須になりモータースポーツの死亡事故が激減したと言われている。昔のヘルメットは取り付けに加工が必要な場合もあるけど、hans本体は初めの頃に比べてだいぶ値下がりしたので、早いうちに導入することをオススメしておきたい。

 

 

ロールケージは6点式に加え、サイドバーなどを追加する手もある。東北660選手権の参加車両でも、サイドバー付きが増えてきた。

K4-GPで必須とされている腕ベルト。操作に支障のないレベルで両腕が開くのを規制する。だからK4-GPは窓を開けてもOKなのだ。