第2回:イベント参加の前に理解すべきこと

モータースポーツに携わる心構えを再確認

 

①主催者は規制し参加者は自制する

 両者が協力すれば衰退は防げる!

 

今から20~30年ほど前、サーキットでは毎週のように草レース系イベントが開催され、それは凄い盛り上がりだった。ところがある時期から衰退の一途をたどり、モータースポーツは冬の時代に突入してしまう。その原因は果たして何なのだろう。景気の低迷やベース車の不足など、理由をひとつに絞ることはできない。しかし、イベントの空気を悪い方向に過熱させた主催者や参加者、いわゆる当事者たちの責任も決して無視はできないはずだ。

例えばこんなケースがある。エントリーが40台を軽く越えていた草レース、車種こそ違えど排気量はほぼ一緒で、戦闘力の差が少なく毎回のように手に汗を握るバトルが展開され、ギャラリーからは「このレースに出ることが目標です!」という声も多かった。参加者たちは独自の不文律として、「お金をかけたらキリがない。だからエンジンはノーマルでいこう」との口約束を交わしており、イコールコンディションに近い状況でレースを楽しんでいた。

ところが、誰かがフルチューンのエンジンを持ち込んで圧倒的な勝利を飾った途端、チューニング競争が勃発。エスカレートするのに時間はかからず、お金が続かなくなった人が少しずつ去っていき、3年もしないうちにイベント自体が成立しない台数まで激減してしまったのだ。

最初にフルチューンした参加者だけが悪いワケじゃない。そうなることを感じながら何の手も講じなかった主催者、流れに乗ってしまった他の参加者にも、少しずつ責任があると考えている。では、この場合どんな対策を立てればよかったのか。参加者たちが話していたのは、エンジンに手を入れた車両の別クラスを作る、エンジンの改造をノーマル部品(N1仕様)に限る、公式レースの経験があるドライバーは遠慮してもらう、などなど。どれも完璧な対策とはいえないが、何らかのカタチで反映することはできたはずである。

過去の反省を活かし、現在では最初からレギュレーションを細かく決めたイベントや、空気が変わり始めたら臨機応変に規則を修正するイベントも多い。主催するプロショップやサーキットにとって、参加者が減ることは死活問題。エントリーする側もイベントを持続させたいとの思いから、イイ意味で空気を読むようになり、チューニングの度合いや自分の技量に合ったクラスを選ぶ人が増えてきたのは歓迎すべきことだ。

コンパクトカーのモータースポーツは車両の維持費が安く、イベントの規則もよく考えられたモノが多いため、特に近年Kカーのイベントは世間の逆風に負けずどんどん人気が高まってきた。ただし少しの間違いがきっかけとなり、かつての失敗を繰り返す可能性も十分にある。現在のイイ流れを変えず、参加型モータースポーツを長く楽しむために、早い段階から警鐘を鳴らしておきたい。

ココからは初心者ではなく、中~上級者に向けたお願い。小学生だけの球技大会に甲子園の優勝校が参加して、まわりを寄せ付けない強さで圧勝したとする。それを讃える人はいないし、むしろ周囲から冷めた目で見られるだけ。ベテランはベテランに相応しいステージで戦い、初心者から「いつか自分も同じ場所まで上がってやるぞ!」と目標にされるような、カッコいいドライバーを目指して欲しい。どんなスポーツでも同じで、実力が認められるのは、強いライバルに勝利してこそなのだ。

レース系イベントの規則書には、必ずといってイイほど「スポーツマンシップ云々」と書いてある。その意味をよく考えてみるべし。

 

 

②ステップアップ制度の導入もビギナーを守る手段のひとつ

 

いつも勝つのは同じ人ばかり、というのはイベントとして好ましい状況じゃない。ベテランや上昇志向の強い人が集まるトップカテゴリーならOKだけど、入門カテゴリーでは閉塞感を生み出してしまうのだ。初級者がスポットを浴びるチャンスを増やしつつ、上級者にはレベルの高い勝負を楽しんでもらいたい。それらを両立させるため、どの主催者も頭を悩ませていることだろう。例えば東北660選手権では、ステップアップ制度を設けることで対応。ビギナーが多い5クラスや3クラスを入門カテゴリーと位置づけ、ある程度の成績を残したら上のクラスに移らざるを得ないシステムを作った。つまり各クラスは特定のドライバーがいつまでも君臨できず、常に新しいヒーローが誕生するというワケだ。じつはコレも、かつて草レースが衰退していったことの反省から思い付いたアイディア。また東北660選手権の5クラスと3クラスは改造範囲やタイヤが制限されており、資金力による性能差が出にくいのもメリットといえるだろう。ビギナーはビギナーに相応しいクラスで、ベテランはベテランに相応しいクラスで楽しもう。

 

 

③レギュレーションは守るためにある、破って手に入れた勝利に価値はない

 

多くのイベントでは車両の改造範囲を定めたレギュレーションが存在するが、公式レースのようなチェック体制が整っていることは少ない。だからこそ、参加者ひとりひとりが規則を遵守しなければ、アッという間に無法地帯となってしまう。仮に違反がバレないまま勝ったところで、やましい気持ちはずっと引きずるはずだし、それを後ろめたく思わない人はモータースポーツに携わるべきじゃない。むしろ上級者ほどレギュレーションを拡大解釈することなく、ビギナーの見本となるクルマ作りやレース運びを心がけて欲しい。

 

最近は近隣の住人に配慮し、音量規制のあるサーキットが増えている。「1台くらいオーバーしても大丈夫」などと考えず、基準を余裕でクリアするくらいの心配りを持ちたい。

タイヤの加工は判断が難しいうえ、タイムも極端に変わる悪質な規則違反。「あのクルマがやっているから自分も」ではなく、正当な手段で結果を出してこそ価値が高まるのだ。

イベントによっては、かなり細かくチェックする場合もある。意図的な違反が発覚したら失格になるのは当たり前だし、マトモな神経の持ち主なら参加しずらくなるに違いない。

 

④安全の基準はイベントごとに異なる、相手を加害者にしないための配慮も

 

同じサーキット走行でも、イベントの内容やコースのレイアウトによって危険度はさまざまだ。事故の起きる確率がイチバン高いのは、少ない周回数のなかで相手と競い合うスプリントレース。仮にレギュレーションで必須とされていなくとも、自分の身を守ると同時に相手を加害者にしないため、ロールケージや4点式シートベルトを装着するのは参加者のマナーといえるだろう。万が一レースで大ケガをする人が出れば、イベントの存続すら危ぶまれる。このような常識を伝えていくのも、上級者の大事な役目と考えて欲しい。

耐火性のレーシングスーツや4輪用ヘルメット、さらに最近はhansを使う人も増えてきた。ローパワーの車とはいえ、コーナリング速度はハイパワー車を上まわることもある。

自走不能になったときスムーズに牽引してもらうトーループや、クラッシュ時にリヤゲートが開くのを防ぐためダンパーのガスを抜くなど、最悪の事態に備えた対策も忘れずに。